Photopic negative response (PhNR) の臨床応用(町田 繁樹)

 PhNR は錐体 ERG の b 波に続く陰性波である。演者が PhNR の存在に気付いたのは、 1998 年の米国留学中に網膜変性モデル動物から ERG を記録している時である。その後、 Frishman らはサル眼の PhNR は網膜神経節細胞( RGC )の機能を反映していると報告された。我々は、 PhNR の臨床応用を目指して研究を行なってきたので、その成果を報告する。
  視神経萎縮眼では、 PhNR 振幅が選択的に低下した。外傷性視神経症での PhNR は、外傷直後は正常だが、視神経萎縮に伴ってその振幅が低下した( Gotoh, Machida et al., Arch Ophthalmol, 2004 )。このことから、人眼の PhNR は網膜内の RGC の機能を反映していると考えられた。緑内障では PhNR 振幅が網膜感度、網膜神経線維層厚、 rim area および cup/disc area ratio に相関した( Machida et al., IOVS, 2008 )。すなわち、 PhNR は緑内障の機能的および形態的変化を反映していると考えられた。しかし、 PhNR の緑内障検出の感度は 70 〜 77 % で、その診断能力は決して高いものではなかった。
  網膜中心動脈閉塞では b 波の振幅低下が有名な所見であるが、 PhNR は b 波に比較してその振幅が著しく低下した( Machida et al., AJO, 2004 )。また、 ICG を用いた黄斑円孔の術後にみられる視野欠損例では、 PhNR 振幅が著明に低下していた。これらの眼底疾患では、網膜内層が傷害されていることを示す所見と考えられた。
  限局性の RGC 障害を検出するため、局所 ERG の PhNR (局所 PhNR )の有用性を検討した。中心暗点を呈する限局性の視神経萎縮では、通常の PhNR (全視野刺激 PhNR )はしばしば正常であった。しかし、黄斑部から記録される局所 PhNR は全例で異常となった( Tamada, Machida, et al., JJO, 2009, in press )。また、早期の緑内障でも局所 PhNR の振幅が低下し、局所 PhNR の緑内障検出の感度・特異度は 90 % 以上であった( Machida et al., IOVS, 2008; Machida et al., BJO, 2009 )。局所 PhNR を用いることで、全視野刺激 PhNR に比較して診断能力が格段に改善した。また、局所 PhNR 振幅は視神経乳頭あるいは網膜神経線維層の局所的な変化に相関していた( Tamada, Machida et al., Curr Eye Res, 2009, in press )。
  遺伝性視細胞変性の動物モデルの錐体応答を記録すると興味深い所見がみられた( Machida et al., IOVS, 2008 )。 P23H ロドプシントランスジェニック( Machida et al., IOVS, 2000 )および RCS ラットの錐体応答を比較すると、前者では b 波振幅の低下に伴って PhNR 振幅は低下した。一方、後者では b 波振幅の低下にもかかわらず PhNR 振幅は保たれていた。 RCS ラットでは網膜内層の機能的な変化が生じていることを示す所見と考えられた。
  以上のように、 PhNR は視神経疾患および網膜内層疾患の他覚的な機能評価法として有用と考えられた。局所 ERG と組み合わせることによって、 PhNR の診断能力は向上した。また、 PhNR は網膜外層疾患にも応用できる可能性を秘めている。  

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